活動記録/Activities

第7回研究会
日時 2008年7月5日(土) 13:00?18:00
場所 東京外国語大学 本郷サテライト 4階

発表者1 成澤徳子さん (京都大学大学院)
ザンビア、トンガ社会における単身女性(仮)

発表者2 飯高伸五さん (日本学術振興会PD/筑波大学)
母系的社会におけるシングル性とハーフの処遇
―ミクロネシア・パラオ社会における日系人を事例として―

【発表者1】
「ザンビア・トンガ農村社会の変容と女性の生計活動―シングル女性に着目して」

 成澤徳子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科/日本学術振興会DC)

 これまでアフリカの生業とジェンダーにまつわる研究領域では、「伝統的」に現金稼得活動を男性領域としてきた社会において女性が現金稼得を実現することは、家庭内の役割放棄や夫の威信への脅威などを理由に男性側に受容されにくいなど、社会的軋轢を生じ得る問題が指摘されてきた。本報告では、ザンビア南部のトンガ社会を事例に、近年の社会経済変容にともなう女性の現金稼得活動の多様化を、ひろい社会関係のなかに位置づけ、夫がいる女性と夫がいないシングル女性(未婚女性と離婚女性および寡婦)の相違に着目しながら考察した。
 ザンビア共和国南部州に居住する農耕民トンガの社会では、植民地時代における国内北部の銅鉱山の開発および鉄道建設を契機に、都市鉱山労働者向けの食糧供給地として農村開発が進められてきた。トンガは、高収量品種のトウモロコシ常畑栽培に早くから農業を転換・集中させることで現金収入を得てきたが、各世帯において男女協働の換金作物生産から得られる農業所得は男性が掌握し、農外所得の稼得も主に男性の役割とされてきた。1950年代になると、女性によって儀礼や共同労働報酬のために各家庭で醸造されていた地酒が販売されるようになった。以後80年代まで、農村女性の主要な現金稼得手段は、地酒の醸造販売にほぼ限られてきたとされる。しかし90年代以降、市場経済化や旱魃、牛疫の発生など一連の複合的影響により、農業所得が減少するとともに日常生活における現金の必要性が増大してきた。そのなかで、トンガ女性の現金稼得活動は現在、多様で自律性の高いものになってきていることが現地調査で明らかとなった。それらの活動を、地域全体の季節性をともなう生業活動との連続性および、ひろい社会関係のなかに位置づけて考察すると以下のようになる。
 雨季のあいだ調査村では、女性は家族または居住を共にする親族を単位として協働的農作業に従事している。その協働作業の賜物であるトウモロコシ収穫後にカネと余暇が生まれ、乾季に女性の農外経済活動が可能になるとともに、村人による各種催し物・行事が盛んに開催される。村周辺に定期市のような経済活動の場は存在しないが、女性たちは各種生産物・加工品を販売する場として、地酒飲み場や伝統行事・儀礼、あるいは学校主催のスポーツ大会やNGO主催のワークショップといった催し物会場などを活用している。このように、女性はローカルな社会活動空間を経済空間に組み替え、また楽しみの場と経済空間を融合させることで、自分たちの「いちば」を創出していることが明らかとなった。即ち彼女たちは、従来の社会関係を壊すのではなくそれを活用し、一定の社会制度の枠組みのなかで、世帯外での個人的な現金へのアクセスを実現してきたといえる。
 村の「いちば」における販売活動は、既存の社会関係が売買のやりとりに反映されるものであり、都市や他地域の市場に参入するのとは違い販売活動がしやすく、夫がいる/いないに関わらず、多くの女性にとって主要な現金稼得活動の場となっている。また夫がいる女性にとって、夫との共有空間において活動できるため、夫の理解による協力が得られやすい。ただし「いちば」以外での現金稼得活動として、シングル女性のなかには、ある程度の初期資本や教育レベルを有し、少ない雇用機会を得られた場合にのみ、企業雇用やNGO雇用、小規模交易などに代表されるような、家庭の外での拘束時間が長いが他の活動に比べて高収入が見込める仕事に従事する者もいる。
 シングル女性が世帯主となっている女性世帯主世帯は、農業投入財や土地あるいは生産手段へのアクセス、世帯内での労働力などの点で男性よりも不利なことから、男性世帯主世帯と比べて生計の基盤となる農業所得が相対的に低いことが一般的に指摘されている。事実、調査村全50世帯(うち女性世帯主世帯は計15世帯)においても、干ばつや大雨以外の平常時でトウモロコシを出荷できている11世帯は全て男性世帯主世帯であった。一方で女性世帯主世帯には、自給に十分なトウモロコシさえ生産できない世帯が多い。低い農業所得を高い農外所得で補填できる一部の女性世帯主世帯とその他の女性世帯主世帯の相違について、以下の事例から考察する。
 南部州では2007/08年雨季の大雨によるトウモロコシの作物被害が深刻で、政府はその対応策のひとつとして、被害が特に大きい世帯を対象とした食糧の直接分配を決定した。援助対象世帯を各村が自分たちで選出し行政に申告することとなり、調査村でも最終的に14世帯が選出された。村では多少の程度の差はあれ全ての世帯が作物被害を受けており、そのなかで選出された世帯の大半は、世帯主が高齢もしくは病気で、またその半数が女性世帯主世帯であった。この事例から、農業生産が相対的に少ない女性世帯主世帯など、生計基盤が脆弱な世帯が自然災害などの非常時に最初に救うべき対象として、社会的に認識されている可能性がある。一方で、女性世帯主世帯のなかでも、世帯主が高収入の雇用労働に従事している世帯や、牛の所有頭数が多い世帯、または村外から現金の仕送りを受けているといった世帯は援助対象から除外されており、援助対象世帯の選出には女性の経済的格差や多様性も反映されていた。男性世帯主世帯と比較して生計の基盤となる農業生産が相対的に少ない女性世帯主世帯は、生計における脆弱性が総じて高い傾向にあるものの、農外経済活動の多様化とともに、女性世帯主世帯の間にも格差と相違が存在している。
 本報告では、夫がいない女性を「シングル女性」というカテゴリーで括ったが、今後は女性のライフコースの違いなどを念頭に置きながら、女性の社会的地位の変化とそれに伴う対応戦略にみられる相違、また一方で、彼女たちを社会がどう位置づけているのか、という両側面から、トンガ女性の経済実践についてより個別詳細に調査・分析することを今後の研究課題とした。

【発表者2】

母系的社会におけるシングル性とハーフの処遇
―ミクロネシア・パラオ社会における日系人を事例として―

飯高伸五(日本学術振興会特別研究員PD/筑波大学)

 第二次世界大戦以前、大日本帝国の統治下にあったミクロネシア地域には、「日系人」が少なからず存在する。かれらは、とりわけ1930年代以降に大量流入した日本人移住者の男性と現地人女性との間に生まれたハーフである。日本統治時代、かれらは父親によって日本国籍取得の便宜を図られることなく、母親のもとで現地人の子弟として養育される者が多かった。その一方で、日本人の父親のもとで養育され、日本人子弟向けの小学校に通学する者もいた。戦後、日本人移住者が内地に引き上げた際には、ごく僅かな例外を除きハーフは母親とともに現地に残され、日本に帰化することはなかった。つまりミクロネシアの日系人は、日本人の父親の不在というシングル性を帯びた環境に置かれたのである。本発表ではパラオ社会を事例として、母系的社会における夫のいない母親とその子どもの位置性に留意しながら、日系人の処遇を検討した。
 パラオは、母方の親族組織(kebliil)への帰属が優先されつつも、父方の親族組織への帰属も可能であるという、柔軟な出自原理を持つ。こうした母系的な社会において、夫がいないこと、父親がいないということはさほど目立たない。例えば、夫の死後、未亡人は子どもとともに実家に戻ることで、生活基盤を確保することが出来る。また、パラオ社会の伝統的観念において、離婚という考え方はなく、生前の婚姻関係の解消は配偶者の死による婚姻関係の消滅と連続的に捉えられていた。また、女性が何度も結婚することによって、夫方からカネを獲得するという戦略的な実践も行われていた。未婚で子どもが生まれた場合には、例えば第一子誕生儀礼(ngasech)などの際に、妻方は夫方からカネの支払いを受けることが出来ないが、子どもは母方の親族組織のもとで養育ないし養取されることによって、十分な生活基盤が確保される。
 日本人移住者の男性とパラオ人女性とのハーフもまた、日常生活においてはパラオ社会の中で目立たない存在となっている。日本人の父親が本国に帰還しても、かれらは母方の親族組織に養育ないし養取されることが多く、成人後も土地や称号の継承において差別を受けているわけではない。かれらは日系人としての集合的なアイデンティティを保持しているわけではないが、それでも一部のハーフは、日本からの慰霊団の訪問を契機として、パラオサクラ会というアソシエーションを組織するなど、日本に辿れる父方の出自を集合的に想起することも忘れていない。パラオサクラ会のメンバーのなかには、慰霊団による慰霊碑建立を積極的に支援すると同時に、自らがパラオで選挙に出馬する際には日本側にカンパなどの支援を求める者もいる。こうした事例からは、戦後のパラオでは、日本に辿れる父方の出自は、政治的なリソースのひとつとなっていることがわかる。ハーフは、母系的な社会の出自原理によって日常的には無徴化されているが、日本人と対面するなかで、日本人の父親の不在というシングル性を表出させ、ゆるやかなまとまりを形成しているといえる。
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