活動記録/Activities

第6回研究会
日時 2008年 6月14日(土) 13:30~18:00 
場所 東京外国語大学 小会議室302

プログラム
発表者1 花渕馨也さん  (北海道医療大学)
郊外のママン・イゾレ ――マルセイユのコモロ系移民女性

発表者2 田所聖志さん (立正大学・非)
「家族」という語がない社会と「シングル」
――パプアニューギニア、テワーダ社会におけるifankyo/miya概念を手掛かりとして

【発表要旨1】

郊外のママン・イゾレ ? マルセイユのコモロ系移民女性
                    花渕馨也  (北海道医療大学)


 本発表では、90年代末からマルセイユ市で増えてきたコモロ人の単身女性移民の移動の歴史的背景と、その生活実態について報告し、シングル移民女性を研究する視点について若干の指摘を行った。
南仏のマルセイユ市には約4~8万人と推計されるコモロ人移民が住んでおり、「コモロの五番目の島」と呼ばれている。彼らの多くは60~80年代に東アフリカのコモロ諸島から移住してきた人々と、その第二、第三世代であり、90%以上がフランス国籍を持っている。「ディアスポラ・コモリエンヌ」と呼ばれるフランスのコモロ系移民は、すでにフランス社会によく馴染み、定着している一方で、コモロのイスラムや伝統的慣習を保持し、故郷の村との関係を強くもった移民コミュニティを形成している。
 90年代後半になり、コモロ国家が経済的破綻を背景とした地域分離運動により国家崩壊の危機に陥る一方で、フランスへの羨望が膨張し、コモロ諸島の四島のうち唯一フランス領に残ったマイヨット島へと密航する人々や、フランス本土へと移動してくる新たな移民が急増するようになった。特にマルセイユ市において近年聞かれるのは、単身女性やシングル・マザーの増加である。彼らの多くが近郊のHLM(公共の低家賃団地)で、フランスの社会保障によるママン・イゾレ(母子手当)などに依存して生活するというケースが顕著に見られるようになった。
彼女たちの移民ライフは、結婚に関する伝統的慣習に強く拘束され、男性に対して従属的立場に置かれるコモロ本土の女性の立場と比較し、ずいぶん自由を謳歌することができるようにも見える。彼女たちの中には、シングル・マザーに対しより肯定的価値を置くフランスにおいて、働かずとも社会保障をうまく利用しつつ、何人もの愛人たちとの自由な恋愛関係を楽しみ、団地の友人たちと憑依儀礼を楽しむ日常を送っている女性もいる。しかし、個々の女性のライフヒストリーの聞き取りからは、彼女たちの生活は移民コミュニティのなかでどのような個人的ネットワークを築くことができるかによって大きく左右され、シングルであることが貧困と孤独へと向かう場合も少なからずあることが見えてきた。
 シングルの移民女性は、コモロ社会におけるシングル女性に対する社会的規範によって規定される存在であると同時に、移民先であるフランス社会におけるシングル女性に対する社会的規範によって規定されるという二重の規範の内にある存在でもあり、また、さらには、トランスナショナルな社会空間を移動することで、特定の社会空間から身を離すことにより、その両方の既存の社会関係を離脱し、新たな関係を構築する可能性をもつ存在でもある。その関係構築のなかでも、地縁、血縁といった共同体やアソシアシオン的関係を前提とせず、自らが身を置く社会規範や境界を越えて個々人の交渉の中で成立しうる、恋愛関係や友情関係といった「友愛的関係」を切り結ぶことがシングル移民女性の日常生活において重要性をもっていることを指摘し、「シングルの友愛論」の構築を目指すことを今後の研究課題とした。

【発表要旨2】
「家族」という語がない社会と「シングル」――パプアニューギニア、テワーダ社会におけるifankyo/miya概念を手掛かりとして
                                      田所聖志


 本発表の目的は、パプアニューギニアのテワーダ社会における、人間のカテゴリーの概念ならびに結婚していない人びとに関する民族誌的報告を行ったうえで、テワーダにおける「シングル」について検討を試みることであった。
 発表にあたってまず、本発表における「シングル」の捉え方について予備的考察を行った。発表者は「シングル」を概念化するにあたり、主に日本を対象とした家族研究を手掛かりとした。現代日本ではシステムとしての近代家族が終焉を迎える一方、家族の絆は強調され、家族への心理的な依存は継続していることが指摘されている。同時に、家族から外れた存在は、孤独という意味が多分に込められた「ひとり」という言葉で表現される。また、「シングル」という言葉は、「生き方」を指す場合や、結婚していない「状況」を指す場合とに大別される。以上のようなことを踏まえ、発表者は、「シングル」を「ひとりという状況に置かれる中で、その状況に対処する手立てを考えようとする人びと」と規定した。
 そこであらためて、現代日本社会における「シングル」を見つめると、以下の二つに分けられることに気づいた。すなわち、不安定な状況に対する不安を表明する「シングル」と、状況に対して積極的に向き合おうとする意志を強調する「シングル」である。発表者は、両者をさしあたり「不安型シングル」/「闘争型シングル」とに大別し、両者の違いを生むのは「家族」との関係構築の差ではないかという予想を立てた。そして、その予想の上に立ち、日本とは異なる「家族」関係を構築しているパプアニューギニアのテワーダ社会において、「シングル」とはどのように位置づけられているのか検討することにした。
 ニューギニアの諸社会は「家族」に対応するような言葉のない社会であると言われてきた。個人は、村落共同体や土地保有集団など、共住集団を越えた集団に対してアイデンティティを持つなど、「一体感」はかなり広範囲の集団に対して表明される。本発表でとりあげたテワーダ社会も同様である。
 テワーダは、ニューギニア島南東部に居住する焼畑農耕民の社会である。生業活動では性別分業がなされており、それは厳格な儀礼的禁忌に取り巻かれている。土地権を中軸とした権利や義務などの相続ラインは、理念的には父系が理想とされるものの、実際には共系的である。居住形態は夫方居住をとる夫婦が多い。一夫多妻の婚姻形態も認められる。結婚は、両親同士の取り決めが理想とされる一方、当事者同士の合意による場合もある。婚資は、以前は豚や小動物の燻製であったが、現在は現金が主流である。結婚後の男性を中心として、都市部や島嶼部でのプランテーションにおける契約労働に従事する者も多い。
 結婚は人生においてなすべきこととされている。若年男性を除き、年かさを増した男性で結婚歴のない者は1人だけである。また、年かさを増した女性で結婚歴のない女性は皆無である。
 妻と死別した男性(鰥夫)は居住地を変えることなく、亡妻とともに住んだ家屋にひとりで住み続ける。再婚せずに鰥夫のままでいる男性は多くなく、やがては再婚することが望まれている。再婚しないと、女性のすべき生業活動に従事する人手が足りず、社会生活に支障を来すためである。他方、夫と死別した女性(寡婦)の場合、亡夫と暮らした家屋に住み続けることはない。彼女たちは、禁忌によって新しい場所へと移ることになる。身を寄せる先はチチ・オジ・キョウダイ・シマイ・イトコなどの縁をたぐり寄せて探し出す。彼女たちは、新しい同居先で他の人びとと共存する生活に入る。
 テワーダには、年かさに応じて人を分類するカテゴリーがある。そのなかで、若年男性で未婚の者は"oyo ifankyo"と呼ばれる。また、年かさを増した男性で未婚の者は"afo ifankyo"と呼ばれる。"ifankyo"は「未婚の」「若い」などを意味する語であるが、「人」を意味する"afo"と結ぶと、年を越えた未婚の男性のみを意味するのである。その一方、若年で未婚の女性も年かさを増した未婚女性も"apaki miya"と呼ばれる(実際には、年かさを増した未婚女性は存在しない)。この点に注意すると、テワーダ社会では、年かさを増した未婚男性のみが特別な名辞を与えられた存在と言える。
 こうした例として、発表では現在40歳代半ばのO氏のライフヒストリーを簡単に紹介した。彼は10代の頃に首都に出かけ、長い間暮らし、30代の半ばになってからテワーダの領域に戻ってきた。以来、彼は村を出ることなく、同じ場所に暮らしている。彼は両親やキョウダイからの結婚に対する期待に対し、「妻子がいたら、大きな畑を作らなければならない。ひとりだったら、作りたいだけの畑を作ればいい。全部自分の好きにしていい」と語って、結婚への圧力に抗している。こうした彼でも、孤立することはなく、キョウダイとの共存関係によって生活に困窮しない環境が保たれている。オイへの婚資を集める際にもO氏は積極的に関わり、婚資とする小動物の狩猟に貢献した。また、女性の役割分業についても、必要であればシマイやキョウダイの妻からの援助を受けることができるのである。
 以上のことを考慮すると、テワーダ社会には、「ひとり」という状況を生ませないような社会的装置が存在する。O氏のように未婚の男性であっても、キョウダイ関係に基づく「親族」構造の中に配置され、そこから排除されることがないのである。
 このようなさしあたりのまとめを踏まえ、最後に以下の点を示唆した。どの社会にも「ひとり」と表現しうる状況がある。その内実について検討することで「シングル」という語のもつ可能性を広げることが可能ではないか。
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