活動記録/Activities

第5回研究会
日時 2007年2月2日(土)13:00〜18:00
場所 東京外国語大学 本郷サテライト4階

発表者1 水島希さん  (東京大学情報学環交流研究員)
タイトル  日本のシングルマザー・・・現状と課題

発表者2 岡田浩樹さん (神戸大学)
タイトル  強いられたシングル―韓国社会における「やもめの人類学」から
      「シングル人類学への予備的検討」
   

【発表要旨1】
      日本のシングルマザーの現状と課題
                               水島希(東京大学情報学環交流研究員)


 シングルマザーは、一般的に「母子家庭の母親」や「未婚の母」を指す言葉である。最近では、母子家庭、父子家庭をまとめて「ひとり親家庭」(あるいは単親家庭)と総称し、行政支援の対象とする場合も多いが、父子家庭に比べ母子家庭の割合は已然として高く、経済状況は非常に悪い(全国母子世帯等調査)。公的調査によれば、母子世帯は約80?100満世帯であり、総世帯数の約2パーセントとなっている。母子世帯になった理由は、1980年代に「死別」が「離婚」を上回り、現在では約8割が「離婚」となっている(全国母子世帯等調査結果報告)。母子世帯の平均年間所得は、公的扶助をふくめ233万円である。これは全世帯の平均580万円の4割程度と非常に低く、母子世帯の約8割が、暮らし向きが「大変苦しい」「やや苦しい」と回答している(平成17年国民生活基礎調査)。
 こうした「母子」に対する公的施策の歴史は、戦前に遡る。昭和恐慌後、生活苦による母子心中が頻発したことから1937年(昭和12年)に「母子保護法」が制定された。この法律は、1946年(昭和21年)に生活保護法へと統合されたが、戦争未亡人を中心とした母子家庭の生活問題を解決するため1964年(昭和39年)には「母子福祉法」が新たに制定される。これが1981年に改正され、現行法の「母子及び寡婦福祉法」となった。この法を受け、児童扶養手当中心の支援が実施されてきたが、現在では、母親の就業・自立に向けた総合的な支援が基軸に据えられている。一方で、こうした法的枠組みが実態に即していないとして、シングルマザー当事者団体などの活発なロビーイングも行われるようになっている。
 私は現在シングルマザーとして子どもを育てているが、こうした法的・制度的な「母子家庭」枠組みと、シングルマザーの実態や実感とのずれを日々感じている。たとえば地方自治体での「ひとり親家庭」支援は、異性と同居していないことが条件となる。これにより、生計は別だが育児協力を望めるような異性の友人、恋人との同居は困難となる。また夫のいない女性を対象とした寡婦控除という所得控除制度も、戸籍婚の履歴が必要なため、「離婚」による母子家庭は対象となるが「未婚の母」は対象とはならない。
 同じシングルマザーでも生活条件によって生活実態も異なってくる。子どもの祖父母と同居しているかどうか、元夫が育児に携わっているかどうかといった人的要素や、職に就いているかどうか、常勤かパートか、養育費の額、実家からの支援があるか、など経済的要素などによって、暮らし向きはまったく異なるのだ。逆に、戸籍上はシングルマザーではないが、シングルマザー的な生活状況が生じている場合もある。たとえば、同居している夫が帰宅時間が遅く、共働きにも関わらず育児をひとりで行っている女性や、DVによる別居など、実態としては「母子家庭」でも、制度上「母子家庭」とはみなされないため、行政の支援は受けられない。
 このように見て行くと、シングルマザー、あるいは、母子家庭という定義が非常に曖昧であり、必要な支援という視点からみても一枚岩ではいかない状況であることがわかる。離婚率の上昇により、今後も母子家庭は増加すると予測されるが、シングルマザーという実態の多様性に注目し、より幅広い支援や、柔軟な法的枠組みを案出する必要がある。

【発表要旨2】
「強いられたシングル -韓国社会における「やもめの人類学」から「シングルの人類学へ」要約
                                  岡田浩樹(神戸大学大学院 国際文化学研究科)

本発表では、シングルというサイドラインを引いた場合、韓国社会のどのような側面が見えるかという視点から、朝鮮王朝時代の妓生から現在の韓国社会の買売春に従事する女性を「強いられたシングル」として検討した。
 この前提となる視点は、研究会主催者の問題提起を受け、いずれかの社会を基軸にしたときに、その社会規範や「理想像」から「外れている」「外された」単身者をシングルとして捉える事にある。「婚姻制度」「家族」が参照枠となる「やもめ」ではなく、そこから「外された」シングルに注目する。この研究会の他の発表がシングルを個や主体の問題に関連づけて捉えることに対し、別の視点、シングルの身体性、シングルに関する言説、表象、相互行為の中で顕在化するシングルといった側面に注目するというアプローチをとった。本研究会においても、いささかポジティブな「シングル」(個、たくましい主体としてのシングル)に焦点を当てられることが多い事に対し、ネガティブな「シングル」に注意を喚起し、研究会の議論を深める意図がある。
韓国社会は、「父系出自原理」「氏族制度」「儒教」「家族主義」「強い家父長的イデオロギー」などが特徴とされ、婚姻に関する強い社会的圧力、規制が最近まであった。この中で、妓生、買売春従事女性は、そのような規範から逸脱した存在として、シングルという状況に置かれてきた。そこで、社会学の逸脱論の議論を出発点とし、「強いられた」シングルの役割をどのように取得するのか、集団や社会の成員としての資格や地位はどのように変化、「強いられた」シングルとしての役割に自己認識をどの程度、再調整するのかなどの点に注目し、検討した。
 妓生、性的接客業に従事する女性は、不特定多数の性的対象であり、その性的関係から生み出される親子関係は家族、親族関係を危機に陥れる危険がある。ゆえに、性的接客業に従事する女性は自らの家族関係、親族関係を切断し、「jip(イエ)の外」に排除されることになる。性的接客業に従事する女性は、姓を偽り、家族との一切の接触をさけ、出身地から遠く離れて生活し、個に分断された上で露わなエロスの対象となり、「シングル」を強いられる。朝鮮王朝時代の妓生から、近年のタバン・アガシ、スルチプ・アガシ、マッサージ嬢、ミョンドアガシ(カミソリ娘)まで、「強いられたシングル」の連続性があることを指摘した。このような「強いられたシングル」は政治的・社会的・制度的な支配-従属の関係であり、同時に性的な支配関係の産物であり、エロスの対象で有り続けるために生み出されたシングルのイメージ、役割に応え(させられ)て来た。そして、現在、未婚者や離婚者の増加といった韓国社会の変化の中で、「主体的選択」としてのシングル」が出現している。このような変化の中で、「強いられたシングル」の資格、役割、自己認識が不安定な状況になっている可能性を示唆した。


   
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